「行ってみる?」の一言で、私の心は止まらなくなりました。既婚の私が食事の約束をしてしまった夜。

牡蠣の食べ放題の投稿が、私の理性をそっとすり抜けました。
その日も私は、いつものように家のことに追われていました。
仕事をして、買い物をして、夕飯の段取りを考えて、息子たちの予定を確認して、やっと一息つける時間がほんの少しだけできる。そんな毎日です。
距離を置こうと決めたはずなのに、私はまた、彼のSNSを開いていました。
罪悪感はあります。それでも、画面の向こうの明るさが、私の心の息継ぎになっていたのです。
そしてその日の投稿は、私の大好きな「牡蠣の食べ放題」でした。
湯気、ぷりっとした身、幸せそうな写真。画面越しなのに、潮の香りまで想像できてしまうほどで、私は思わず笑ってしまいました。
その瞬間、理性より先に指が動きました。
「私も行ってみた~い!」
軽いノリのつもりでした。冗談の延長で、すぐに話が流れると思っていました。
返ってきた「行ってみる?」で、世界の色が変わりました。
彼からの返信は早かったです。
「行ってみる?」
たったそれだけの言葉なのに、胸がふわっと浮きました。
私は、心の中でいくつも言い訳を探しました。
既婚者同士だし、美容師とお客様だし、距離を置くって決めたじゃない。
そう思うのに、別の声がすぐに追いかけてくるのです。
「でも、食事だけなら…」
「牡蠣を食べに行くだけなら…」
そして私は、自分でも驚くほど速く、即答してしまいました。
「行く!」
送信した瞬間、心臓がどくんと鳴って、指先が少し熱くなりました。
大人になってから、こんな反応を自分がするなんて思いもしませんでした。
日程が決まっていくほど、私は戻れなくなっていきました。
そこから先は、怖いくらい自然に進みました。
「いつが都合いい?」
「この日どう?」
「じゃあそこで。」
文章は短いのに、やり取りのテンポが心地よくて、私は流れに身を任せるように返信していました。
気づけば、日程まで決まってしまっていました。
約束は、1ヶ月後。
画面に残るその日付が、現実の重さを持って迫ってきたとき、私は息を吸うのを忘れました。
やってしまった、という思いと、嬉しい、という思いが、同じ場所でぐちゃぐちゃに混ざりました。
そしてさらに怖いことに、私は後悔より先に、ときめいてしまったのです。
心が勝手に浮かれて、胸のあたりが落ち着かなくて、夜なのに目が冴えてしまいました。
「ただの食事」と言い聞かせながら、私は自分の気持ちを誤魔化しました。
もちろん分かっています。
これは「ただの牡蠣」ではありません。
私が彼に惹かれていることも、彼の優しさに救われてきたことも、全部つながっているのです。
けれど私は、心の中で必死に安全な形に整えようとしていました。
これは恋じゃない、ただの食事、たまたま好きな牡蠣が同じだっただけ。
そう言い聞かせるほど、気持ちの裏側が熱くなるのを感じました。
夫から「他に彼を作ればいい」「女性用風俗へ行けばいい」と投げつけられてきた私は、誰かの優しさに触れると、それだけで救われた気持ちになってしまうのです。
たった一言、たった一通の返信で、私は「私をちゃんと扱ってくれる人がいる」と思ってしまった。
その事実が嬉しくて、同時に苦しくて、私は自分の中の矛盾を抱えたまま、布団の中で目を閉じました。
ときめきが止まらないのは、彼のせいだけではない気がしています。
私はきっと、長い間「女性としての私」を置き去りにしてきました。
妻として、母として、家庭のために動いているうちに、「私はどうしたい?」という問いを、静かに消してきたのです。
だから、久しぶりに心が動くと、それが眩しくて、怖くて、止め方が分からなくなります。
約束の日までの1ヶ月、私は何度も想像してしまうと思います。
どんな服で行こう、どんな話をしよう、牡蠣は何個食べられるかな、笑ってしまったらどうしよう。
そんな自分がいること自体が、もう答えのような気がして、胸が締めつけられます。
私は家庭を大切にしたいのに。
息子たちを愛しているのに。
なのに私は、久しぶりのときめきを、手放したくないと思ってしまっているのです。
私は今、「嬉しい」と「怖い」の間で揺れています。
約束をしてしまった以上、もう何もなかったことにはできません。
だからこそ私は、自分に問いかけています。
私は彼と何を求めて会うのか。
牡蠣を食べたいだけなのか、優しくされたいだけなのか、それとも、寂しさの穴を埋めたいだけなのか。
答えは簡単には出ません。
でも、心が壊れそうだった私が、久しぶりに「楽しみ」を感じていることも事実です。
それを恥だと切り捨てるのではなく、私はこの気持ちを丁寧に扱いたいです。
誰かに奪われる前に、自分で自分を救えるように。
約束の日までの1ヶ月、私は浮かれた自分も、怖がっている自分も、両方抱えながら暮らしていこうと思います。

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